設立の趣意
日本の似顔絵は、江戸時代の浮世絵で、役者絵のうち、特に役者の個性をとらえて描かれたものが「似顔絵」と呼ばれました。浮世絵中期に一筆斎文調や勝川春章によって、役者の特徴をとらえて強調した浮世絵が多く描かれるようになり、これらが「似顔絵」と呼ばれるようになったものといわれています。
この時代、似顔絵を得意とした絵師には、勝川春好、勝川春英、鳥居清長、東洲斎写楽、歌川豊国などがいて、多くのすばらしい役者似顔絵が描かれました。とくに東洲斎写楽の似顔絵は圧巻で、今の時代の我々までも魅了します。
また、似顔絵は「風刺画」や「漫画」としても発展し、庶民が時の権力者を批判したり、愉快に笑い飛ばす社会的な役割を果たしてきました。私達の身近なところにあって、為政者への風刺や、社会批判の媒体として政治や社会に影響を及ぼす力を持ってきました。
現代では、浮世絵に限らず、人物の顔の特徴をとらえて描いたり、デフォルメして描いた人の顔の絵も似顔絵と呼ばれるようになり、また、席描きと呼ばれて街頭やイベント会場で対面で人を描いたり、結婚式のウェルカムボードや名刺・広告物用の似顔絵等を描く人を似顔絵師と呼んでいます。似顔絵師は私達の身近なところで人の心を和ませる著作者となっています。
これは、江戸時代の似顔絵が、富裕層や一部の愛好家の為の著作物としてではなく、好きな人物の写真やプロマイド・ポスターがわりの身近な存在でもあったことと同様に、絵で人を楽しませたり、和ませたりする庶民文化という点で時代は変化しても変わりません。
それは似顔絵が人を的確にそして個性的に表現し、また或る時は人の心までをも表現します。絵を通して、優しさ、微笑ましさ、明るさ等、様々な人柄を表現する極めて優れた技能だからです。今後も似顔絵は、様々なシーンで我々の身近な存在として生き続けていくことでしょう。
ところで似顔絵はもちろん日本だけのものではありません。海外旅行中に観光地で似顔絵描きに遭遇することも少なくありません。特に、フランスはパリのモンマルトルにあるテルトル広場にも似顔絵描きが大勢います。この似顔絵描きは「芸術の都」と称されるパリで、多くの無名の画家たちが似顔絵を描いて観光客を楽しませているのです。
当協会は、モンマルトルの似顔絵師を低く評価するつもりはありませんが、ただ、日本の似顔絵師の作品とセンスを観ていると、日本文化の血が流れていて、世界の似顔絵師と何処かが違うと思えるのです。日本の似顔絵師は、浮世絵そして役者絵の伝統文化の流れを汲む芸術家でありたいと思うのです。
そのためには、当協会は、似顔絵に関する、さらなる啓蒙・啓発・教育・育成事業を行い、似顔絵師に対する社会的認識および評価を高め、日本に脈々と息づく似顔絵文化の再興を目指していこうと考えています。
具体的な解決の方策としては、似顔絵師が時間と場所に拘束されない「自宅やアトリエで芸術的な作品創り」を行うことが必要であり、同時に作品を評価に相応の経済的な条件で流通させる仕組みを作ることが必要だと考えます。
最後に、大勢の似顔絵師や似顔絵愛好家が存在しているにも関わらず似顔絵師には社会的な活動や発言をする組織が無く、自らの活動や存在意義を主張することができていないことにも一因があるのではないかと考えています。
一般財団法人日本似顔絵師協会の設立は、会員相互の交流を図り、組織を通して経済的な価値を創造し、似顔絵師の社会的評価の向上と似顔絵文化の振興に必ずや寄与するものと確信しております。